彦根金仏壇の製作工程のご紹介(後半)~ご希望にお応えした4尺3方開き御堂造りのお仏壇、漆塗りから完成まで~

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日本を代表する産地彦根で、こだわりの手造り仏壇を製造しております、井上仏壇の井上昌一と申します。

今回は、以前に製作工程をご紹介した彦根金仏壇が完成し、このたび納品させていただきましたので、前回に続き製作工程の後半をご紹介したいと思います。

 

【真宗大谷派 4尺3方開き御堂作りのお仏壇 納品時の様子 秋田県寺院様】

 

秋田県の寺院様から頂いている、ご住職様のご自宅用のお仏壇をお作りしています。以前のブログでもご紹介しましたが、彦根の金仏壇は、以下の大きく7つの工程を、各工程の熟練した職人たちが仕上げて造り上げていきます。

①木地師(きじし)
②宮殿師(くうでんし)
③彫刻師 
④漆塗師(うるしぬりし)
⑤金箔押師 
⑥蒔絵師(まきえし)
⑦錺金具師(かざりかなぐし)

前回は全工程の前半、①木地師②宮殿師③彫刻師の仕事を見ていただきました。今回は後半にあたる、④漆塗師⑤金箔押師⑥蒔絵師⑦錺金具師の仕事をご紹介いたします。

今回の工程としては、

漆塗り・錺金具 ⇒ 金箔押し・蒔絵 ⇒ 組立

という順番で進めていきます。このとき、漆塗りと錺金具は同時進行で進め、その後の金箔押しと蒔絵も同時進行です。

 

漆塗り

塗り加工が完了した彫刻です。こちらは、お仏壇の上部の前狭間という場所の彫刻です。彫刻師が下絵から作成して完成させた彫刻に塗り加工をしました。この彫刻は、一枚彫りで、紅松という木の板1枚から作られています。孔雀の彫刻の繊細な部分まで丁寧に仕上げています。

 

お仏壇本体の漆塗りが完了しました。木地の状態から、下地加工をしたあと漆を手塗りします。正面のつややかな輝きのある蝋色(ろいろ(鏡面))仕上げの場所は、下地加工から漆塗り、磨き上げまで数えると20回以上の工程を繰り返して完成します。のちほど金箔を押すところにも漆を塗って仕上げます。木地に直接金箔は貼れないので、金箔部分も塗らないといけません。金箔を押してから仮組み確認をすると、金箔がはがれたり、塗りの修理がやりにくかったりするので、塗りの段階でこのように再度仮組みをして、点検・確認を行います。

 

中央に配置されている須弥壇(しゅみだん)です。こちらも丁寧に塗って仕上げます。赤い部分は、すべて黒く塗った後に、朱漆を細い漆刷毛で塗っています。

※須弥壇(しゅみだん):堂内に仏像を安置するために、床面より高く設けられた壇のこと。仏教の世界観の中心にあるとされる須弥山を模したものといわれています。

 

錺(かざり)金具

錺金具の図案です。猫戸(引き戸)部分の蒔絵に使用する引手(手掛け)金具の図案です。蒔絵の図案に合わして、蓮の花をモチーフにしたもので、最終的には図案①を採用しました。これに基づいて錺金具を作成します。

 

引手(手掛け)金具を作成しました。上はメッキ前の写真です。ピンク色っぽい部分は銅で、周りの金色部分は真鋳、その外側はステンレスで作られています。銅と真鋳の部分はこのあと黒漆で焼き付けて着色します。こうすることで変色せずにきれいな状態を保てます。

 

こちらはお客様の家紋(三葉葵)です。こちらも上はメッキ前のもので、銅で作られています。金メッキをかけてから、蒔絵師が蒔絵筆で黒い顔料を入れて、家紋の柄が見えやすいようにしています。

 

家紋は、お仏壇の扉の内側にこのように設置します。直径6cmくらいの大きさです。

 

蒔絵

蒔絵のCG図案です。お客様に、完成イメージとして見ていただいたものです。お客様からご提案があった古来の図案を参考に、デザイナーさんにアレンジしてもらいました。

 


こちらは置目(おきめ)といって、蒔絵の下絵のようなものです。青く塗っている部分は青貝(螺鈿)を入れる場所です。

 

完成した蒔絵です。蝶と蓮の花をデザインしたものです。

 

蓮の花とつぼみ・葉、そのツルが伸びるような様子を、お客様のご希望のデザインを元に作成しました。さきほどの下絵で指定していた蓮の花の中と蝶の羽には、青貝が入っています。

 

こちらは引き戸の蒔絵です。さきほどの引手(手掛け)金具を取り付けたところです。ここも、同じような蓮の花と蝶のモチーフで、青貝が随所に埋め込まれています。引手(手掛け)金具は、黒く着色されているので、蒔絵の邪魔になりません。

 

お仏壇が完成すると、このようになります。上に猫戸(引き戸)の蒔絵、下には3杯の引き出しの蒔絵が見えます。

 

組立

組み立てに入るところです。一番下の台輪(土台)に、側板と向板(3方向の板)を差し込んだところです。金箔を押していない場所は、組み上がると他の部材で隠れるところなので、そのままの状態です。

 

金具を打ったり彫刻を取り付けたりして、組み立てていきます。塗り上がりの際に、確認・点検をして、調整までしていましたので、順々に組み立てを進めていくことができます。

 

須弥壇です。お寺様のご本堂の内陣にある須弥壇の写真をいただいて、同じような龍の彫刻にしています。ご本堂の須弥壇を縮小したようなかたちです。

 

仏像

仏像も、今回当店で新しいものをご用意しました。この仏像は、本山の木仏点検に合格した仏像となります。京都のご本山(東本願寺)の阿弥陀堂にある阿弥陀如来様のお姿と同じ仏像でないと点検に合格することが出来ません。木仏点検の申請を行い、ご本山まで仏像を持参して、点検を受け、合格した仏像です。仏身は、衣を截金(きりがね)細工で表現しています。台座かたちは、七重座となります。仏像は、本山より御墨付きの証書をいただき、二つ折り加工をして納めさせていただきました。

 

完成

組み立てが終わりました。仏像と仏具はまだ設置していませんが、お仏壇本体は完成しました。

 

お障子を閉めたところです。お仏壇の中の様子がうっすらと見えます。

 

外側の雨戸まで閉めるとこのような状態です。つややかで重厚感のある仕上がりです。今回はお客様のご希望で、赤みがあって木目が見える彦根壇ではなく、黒塗りの京壇に仕上げています。

 

扉の金具 八双(はっそう)・閂(かんぬき)です。銅板を加工したものです。左右の八双には、糸ノコでひとつずつ手作業で抜いていった唐草の透かし模様が入っています。さらに漆で焼き付けて、宣徳色と呼ばれる落ち着いた渋い色合いを出しています。普段扉を開いた状態では見えないこういった細部にも、職人の技が活きています。

 

先ほどの須弥壇の上に、宮殿(くうでん)を配置しています。こちらもお客様のご希望の京壇の仕上げです。繊細な彫刻、きらびやかな美しい仕上がりです。天井部分は、中央部を一段高くした、建築でも使われている伝統的で格式高い作りである折り上げ格天井(おりあげごうてんじょう)です。

 

完成したお仏壇に、当店の工房で仏像と仏具を仮置きしたところです。仏像の手前に、台のような仏具を置いています。お顔がきれいに見えるよう、高さなどの確認・調整を行います。

 

納品

ご納品時の様子です。
真宗大谷派 4尺3方開き御堂造りの金仏壇です。仏間はすでにお寺様で用意されていたので、仏間のサイズに合わせてお作りしました。仏間の高さが2mと高かったので、すだれをお作りして調整しています。

 

仏具をすべて飾ったお仏壇です。仏像の両脇の掛軸は九字十字名号で、お念仏を書いたものです。左右に下がっている輪灯瓔珞(りんとうようらく)、花立てや亀の上に鶴が乗った形の蝋燭立てなど、お東の正式な仏具です。

宮殿の上部、屋根の部分がきれいに見えています。通常、隠れてしまうこともありますが、今回はよく見えるように意識して設計しました。中屋根(中厨子)は、お東の特徴である瓦葺き二重屋根です。写真は中腰の状態で撮影したものですが、しゃがんでお参りする際にはもっとよく見えて、奥にある天井もきれいに見えます。

 

前狭間彫刻です。お寺様本堂にある欄間の彫刻を元に作成しました。塗りのあと金箔を押し完成しました。細部まで丁寧に仕上げています。

 

お仏壇の右上部側面、お参りする際には見えない場所に、シリアルナンバーが入った「伝統的工芸品」「彦根仏壇」のシールを貼っています。伝統的工芸品の彦根仏壇は、厳格な基準に則って、昔ながらの手造りで造っています。彦根仏壇事業協同組合の検査委員会でしっかり検査してもらって合格すると、「検査合格書」とこのシールそして向板(背板)裏とごみ取り(一番上の板)に焼印をいただくことができます。世界にひとつしかない、手造りの仏壇である証しです。

 

お話しを頂いてから1年ほどかけて、このたびご納品となりました。コロナの影響で当初のご納品の予定より2ヶ月ほど遅れてしまったのですが、お客様には出来栄えにとてもご満足いただけました。お寺様へのご納品ということですから、プロの方にお渡しするものということで、仏具なども間違いのないよう、普段以上に十分に気を配ってご納品させていただきました。長らくお待ちいただき、ありがとうございました。

今回のお仏壇は、お客様のご希望で全体的にできるだけ京壇に仕上げました。彦根の色をあまり出さないように、細部まで意識してお作りしました。その点も大変お喜びいただけた理由のひとつかと思います。

今回は、ご注文を頂いてからご納品まで、約1年がかりでのお仏壇造りでした。こうした「いい物を造る」仕事は、私も職人もとてもやりがいを感じる仕事です。心を込めてお造りしたお仏壇の完成を喜んでいただけるのは、本当に至福の喜びです。伝統的な技法を駆使して、手間暇を掛けて完成する仏壇造りを「やっていて良かった!」と感じる瞬間でもあります。
昨今は、お仏壇を家に置かれない方も増えています。そんな中でも、「いいものを造りたい」と思われる方は必ずいらっしゃると思います。今回のような本格的なお仏壇を造りたい方、ご自宅の洋室にも合うお仏壇を造りたい方、先祖代々のお仏壇をきれいにしたい方など、お客様それぞれに様々なご希望がありますが、「いいものを造りたい」という思いは誰でも一緒です。この仕事を始めて30年ほどの間に、今回のような本格的なお仏壇も含めた様々なお仏壇造りに携わってきました。そこで培った知識やノウハウ、ベテランの職人の技などを惜しみなく活かして、これからもたくさんの方に喜んでいただけるお仏壇造りを続けていきたいと思っています。

今回は、伝統的な彦根金仏壇の製作工程の後半のご紹介でした。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

彦根金仏壇製作の工程はこちらでもご覧いただけます⇒