90年以上前の高い技術で作られた彦根仏壇の洗浄。滋賀県豊郷町のお客様

ホームページをご覧いただきまして、ありがとうございます。

日本を代表する産地彦根で、こだわりの手造り仏壇を製造しております、井上仏壇の井上昌一と申します。

滋賀県豊郷町のお客様より、お仏壇のお引越しと洗浄のご依頼をいただきましたので、ご紹介いたします。

 

滋賀県豊郷町のお客様 お仏壇のお引越しと洗浄 真宗大谷派

 

ホームページをご覧になったお客様からお電話をいただきました。当店からは車で15分ほどのお隣、滋賀県豊郷町にお住まいのお客様で、当初はすぐ近くのご実家のお仏壇をご自宅の仏間へ移動したいけれど、古いお仏壇なので移動に耐えられるのかどうか、仏間に入るかどうか見てほしいというご依頼でした。

 

こちらがご依頼をいただいたお仏壇です。通常の彦根仏壇より6㎝内幅が大きい前開きで、高級仕上げの御堂造りタイプで昭和初期に作られたと思われる立派なお仏壇でした。ただ、彫刻が落下していたり金具が取れていたりしており、手入れが行き届いていないこともうかがわれる状態でした。ゆくゆくはご自宅へ持って行くことにされていましたが、このままでは…というお気持ちもあって、ご依頼くださったようです。

このままで応急の修理をして持って行くことも可能ですが、拝見して「良いお仏壇だなあ」と感じ、修理・洗浄をすればまたきれいによみがえること、長い年月が経ってそうする時期に来ていることもあったので、この際きれいに修復や洗浄をすることをご提案しました。ご自宅の仏間に入るかどうかも心配されていましたので確認し、その場でお見積りを差し上げると、移動を機に洗浄をしてきれいにして欲しいということになりました。

 

後日、お仏壇をお引き取りに上がりました。こちらはご本尊ではありませんが、お祀りされていたお釈迦様が苦行されている様子の金属仏像です。こちらもお預かりして、お厨子も本体もきれいにすることになりました。

お引き取りの際は、事前にお魂抜きをしていただき、引き出しなどに入っているものを取り出していただくだけで大丈夫です。ご本尊や吊ってあるお飾りの仏具等はこちらで取り外したりしてお引き取りさせていただいています。

 

お預かりしたお仏壇は工房へ持ち帰り、解体して修復・洗浄を行います。こちらは解体前の様子です。引き取りの際は、接着が甘くなっているものが外れないか確認し、取り外せるものは取り外して慎重に運搬します。落としてしまうと粉々になり、修復するのに追加の手間や費用がかかってしまうためです。上部の前狭間彫刻も、その理由で取り外してから持ち帰りました。また、確認のため事前にお写真を撮っておきます。

 

こちらはお仏壇内部の宮殿(中屋根)とよばれるものです。お東の仕様になっています。今回のお仏壇は御堂造りといって、お寺のお御堂と同じような造りになっており、宮殿が取り外せるようになっていますので、持ち帰る前に外しました。この宮殿は右上の一部分が取れています。こちらも修復・洗浄をします。

 

まずはお仏壇を分解して、小物類の部品も含めひとつひとつすべての金具を取り外しています。

 

その後、細かい部品は分解して洗浄液につけて洗浄を行います。このように屋外で洗浄液につけて、油煙やホコリを洗い落とします。奥にいるのは大ベテランの私の母です^^

 

洗浄後は、天日に干して乾燥させます。しっかり一気に乾燥させるため、洗浄はお天気の良い時に行っています。

 

洗浄を終えたら、次は木地直しです。細かい部品は分解して洗浄液につけて洗浄しますが、他の大きな部品は木材の反りや割れを防ぐため、濡らさずに布拭きできれいにします。その後、一旦仮組みをします。木地直しは、割れや反り、歪みがないか、開閉部分はきつくないか、ゆるくないかなど、耐久性が低下しているところを直すなどの作業です。お仏壇内部の白い丸柱(堂柱)は、木材に塩分があって金具に青錆を出す原因だったため、新しいものに交換しました。ヒノキ科のヒバという木で造りました。完成まで各工程終了後に何度も仮組して検品を重ねます。

 

正面のご本尊の裏側に、このような銘が入っていました。こちらはお仏壇を組み立ててしまうと見えなくなってしまいますので、お客様にも見ていただくためお写真を撮っておきました。「昭和3年」とあります。「中六」はおそらく前開きのこと、「杉浦」という箔押しの職人さんの名前、「芹中」という地名や、「めん佐」「藤村」など、昔お仏壇を作っていた職人さんのお名前も見られ、彦根の歴史を感じます。ちなみに、芹中というのは当店の住所と同じで江戸時代からの町名です。昭和3年にご近所で造られていたことがわかります。

 

こちらは掛けられていた掛け軸の表と裏です。すすなどで変色してきて、古くなって破れているところもありました。こちらは表装を直してきれいにします。

 

掛け軸は、本紙といって絵や文字がかいてある部分の紙だけをめくり、新しい裂地(布地)に貼り合わせて表装し直しました。また、外寸法はお仏壇の吊る間口に合ったサイズに微調整しています。中央のご本尊・両脇(六字名号と十字名号)も同様です。

 

ご納品時です。工房で最終組み立てを行い、毛布などで梱包してお持ちしました。サイズは仏間ギリギリでしたが、事前に確認し、長押をくぐらせることで設置することができました。お仏壇の納品直前にお母様が亡くなられ、忌中でしたので打敷は白(裏)としています。

 

お仏壇はきれいに洗浄、左右の飾りの輪灯瓔珞(りんとうようらく)や輪灯、ご本尊上の神前灯篭は今回新調していただきました。香炉の左側の花立てや鶴亀の蝋燭立てなどの五具足は、お手持ちのものにセラミック加工(お磨き不要加工)をしています。お仏壇の右側中ほど、輪灯の下あたりに、以前から祀られていた金属製のお釈迦さまもきれいにして設置しています。また、内部の明かりはLED電気に変えたので、今後は油煙やすすでお仏壇が汚れることもありません。阿弥陀様へ向けたスポットライトも取り付けたことで、阿弥陀様がはっきり明るく見えています。

 

取り外していた前狭間彫刻は、洗浄をして表面についていた汚れを取りのぞくと、こんなにきれいになりました。古いお仏壇では金箔が取れてしまっているものもあり、必要に応じて部分的に押し(貼り)直したりしますが、今回のお仏壇はいいお仏壇でしたので、金箔ではなく金粉仕上げで、さらに金粉が厚めにしっかりつけてあり、洗浄だけでも十分にきれいになりました。塗り部分は、本体の前側のみ塗り直しを行っています。洗浄は塗り直しをしないのが基本ですが、一部分だけの塗り直しをオプションでお選びいただくこともできます。

見違えるようにきれいになったお仏壇を、お客様にはとても喜んでいただきました。当初思っていたよりお時間がかかってしまいましたが、快くお待ちいただきまして、ありがとうございました。これからお母様の忌明け、一周忌なども今回きれいになったお仏壇でお迎えていただけますね。何かお困りのことなどございましたら、いつでもお声かけくださいませ。

 

今回のお仏壇は、90年以上前に彦根で作られたお仏壇でした。大正の終わりごろから昭和の初め頃、彦根では良いお仏壇をたくさん造っていました。当時はたくさんの職人さんが腕を競うような充実した時代で、今回の洗浄では当時の技術の高さを感じました。写真の前狭間は一枚の板を彫りこんで作られているのですが、葉や茎が交差している様などが本当に活き活きとしています。これは高い技術がなければできないことです。彫刻にしても金具にしても、今の職人さんが力を合わせてできるかどうか…というような高い技術を要することを、昔の職人さんがしていたことに驚きを感じますし、本当に素晴らしいと思います。住宅事情などから昔の大きなお仏壇から小さなお仏壇に買い替えるケースも多くなりました。しかし、彦根で生まれた、職人さんの技術の結晶であるこうした素晴らしいお仏壇を、洗浄・修復をしてきれいにすることで、数十年先の次の世代まで残していただけたことは、彦根でお仏壇造りに関わるものとして本当に嬉しい限りです。貴重なお仕事をご用命いただきまして、ありがとうございました。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。